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現代貨幣とWeb3.0

  • 作成日: 2022-02-28
  • 更新日: 2023-12-24

現代貨幣とWeb3.0

新年も明けて、今年の目標を考える必要があった。
私は今流行っている技術について見に付けようと考えた。

そこで選択したのが「ブロックチェーン」だった。
よし、今年はブロックチェーンだ。

そう思って今年はブロックチェーンについて勉強をしていた。
そしてブロックチェーンを使った技術、Web3.0についても。

だがこれらの技術はベースにあるのはビットコインの存在だ。
つまりビットコインについて考える必要がある。

私はWeb3.0, ビットコインの技術を一通り調べて、それからその思想についても考えることにした。
そうすると、その思想には貨幣論があった。

だがこのビットコインの貨幣論は間違っているという意見もある。
その対角にあるのは現代貨幣理論(MMT)と呼ばれる理論だ。

今回はこのMMTとWeb3.0の世界について考えてみたいと思う。

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Web3.0とは

今のWebは「Web2.0」と言われている。
これが1つ進んだのが「Web3.0」である。

もっとも、本当に進んでいるのかどうかは今のところ誰にもわからない。

Web3.0の特徴は分散型ネットワークとデータベースである。
これはブロックチェーンによって実現される。

Web3.0は非中央集権的で特定の中央サーバーに依存しない。
ビットコインを使った個人間の直接取引が可能だと言われている。

個人の力が強くなり、その分個人の責任も増える。
なにかあったら自己責任の世界でだれも保証はしてくれない。

Web3.0とDAppsプラットフォーム

Web3.0はプラットフォーム上でDAppsと言われる分散型アプリが稼働する。
プラットフォームは最近で有名なのが「イーサリアム」だ。

イーサリアムでは分散型アプリDAppsを実行できる。
DAppsはスマートコントラクトと呼ばれるプログラムを実行できるアプリだ。

スマートコントラクトはSolidityなどのプログラミング言語で書かれた後、コンパイルされてプラットフォームのブロックチェーンに保存される。
一度ブロックチェーンに登録したスマートコントラクトのバイトコードはだれも変更できない。
これは一度デプロイしたらバグもフィックスできないということだ。

スマートコントラクトはイーサリアムのブロックチェーン上の取引を自動化できる。
スマートコントラクトのソースコードもブロックチェーンに保存されていて、これは誰でも見ることができる。

つまりスマートコントラクトは透明性があり、ブロックチェーンが持つ耐障害性と分散性を持つということになる。
スマートコントラクトの実行はプラットフォームが持つ仮想マシン上で行われる。
その結果をP2Pを通じてノードが取得できる。

ブロックチェーン

ブロックチェーンはP2Pという通信モデルを使っている。
これはノードと呼ばれるパソコンが別のノード群と相互に通信を行ってデータを交換するものだ。
このネットワークをP2Pネットワークと言う。
ブロックチェーンのP2Pネットワークではフルノードと呼ばれるノードが、同じデータベースを共有している。

スマートコントラクトをブロックチェーンに書き込む場合、データはブロックという単位で追加される。
ちなみにブロックチェーン上の取引履歴(トランザクション)もブロックで追加される。

ブロックはマイナー(採掘者)と呼ばれるノードが計算を行ってブロックチェーンに追加する。
これを「採掘」と呼ぶ。

マイナーは無数にいて、各マイナーは計算を競い合う。
一番早く計算を終わらせてブロックを書き込んだマイナーにトークン(仮想通貨)が報酬として発行される。

ここで仮想通貨が登場する。

仮想通貨の役割

そう、仮想通貨とはマイナーのための報酬として発行されるものなのだ。
これが仮想通貨の本質である。
もちろん仮想通貨は現金と交換することも出来る。

仮想通貨には発行上限量が設定されることが多い。
たとえばBitCoinは2100万枚が発行上限数になっている。

発行上限数が決まっているので、発行していくと希少性が出てきて価値が上がる仕組みになっている。
つまり発行できる量に限りがあるので、少なければ少ないほど価値が高くなる。

Web3.0において、仮想通貨とはプラットフォームがブロックチェーンの計算のために発行するツールにすぎない。
それ以上の意味は無いし、それ以下の意味もない。

巷にはビットコイン長者があふれているが、なんとも不思議な話である。

ビットコイン

ビットコインは「サトシ・ナカモト」という謎の人物の論文が元になっている。
サトシ・ナカモトは日本人なのか外国人なのか、それとも組織なのか、いずれも不明である。

ビットコインを使うことで特定の金融機関に依存しない通貨発行が可能になり、個人間の直接取引が可能になる。
ということだが、いまのところビットコインの通貨としての価値は非常に不安定だ。
毎日のように価格が乱高下して安定していない。

これは安定するのだろうか?
というか、ビットコインは通貨として機能するのだろうか?

ビットコインの思想

ビットコインの思想はそのままWeb3.0の思想にも反映される。
ビットコインにあるのは個人主義であり、自由主義だ。

つまり経済活動を政府の干渉なしに行えるようにするものである。
「小さな政府」に代表される論理で、個人の経済活動を推し進める。

Web3.0の特徴を思い出してみて欲しい。
分散的で、非中央集権的。
そして個人の力が強くなり、自己責任世界。

これは小さな政府の論理が色濃く反映されている。
つまりサトシ・ナカモトは自由主義者、あるいは無政府主義者ということになる。

ビットコインはアナーキーな人間が発明した技術なのだ。

自由主義とは

自由主義とはリベラルと言われる。
リベラルは2つの意味がある。

  • 権力からの自由を掲げる自由主義。小さな政府。
  • 権力による自由を掲げる自由主義。

ビットコインは前者の思想に近いと思われる。
前者の自由主義で有名な経済学者はアダム・スミスがいる。

前者と後者の違いは、後者が社会保障や福祉を重視している点が異なる。
自由主義には発展として新自由主義がある。

グローバリゼーションに代表される潮流は新自由主義寄りなことが多い。
これはつまり「政府が助けず、自己責任の世界」ということだ。

新自由主義は貧富の差が拡大し社会が不安定になるという批判がある。
しかし日本において小泉、安部政権とこの新自由主義が推し進められた。

日本社会の格差が広がり、「自己責任」が持てはやされるようになった記憶はないだろうか。
これは新自由主義による爪痕だ。

ビットコインと自由主義

ビットコインの根底にはこの自由主義あるいはアナーキズムがある。
このことを考えると、ビットコイン、そしてWeb3.0がどういうものか、その本質が見えてくる。

個人の力が強くなる代わりに、中央集権がなく、取引は自己責任で行われる。
個人の力の優劣が色濃く出て、ビットコインを持つものと持たないものに2分される。
スマートコントラクトのソースコードを読む力が無い者は、その透明性の利点も得ることができない。

Web3.0は個人の能力に左右される世界になると思う。
そういう特徴がある。

MMTはビットコインの根本的な欠陥を指摘する

ビットコインの貨幣論は「商品貨幣論」である。
商品貨幣論とは、貨幣そのものに価値があるとする貨幣論だ。

つまりビットコイン自体に価値がある。
だから発行量が減ると価値が上がる。

どちらかと言うと貨幣と言うよりは「金」の特徴が強い。

商品貨幣論と対照的なのが「現代貨幣論(MMT)」だ。

MMTの仕組み

MMTでは現代の貨幣は「負債」とされている。
負債とは「支払い義務」のことだ。

銀行はもともと金貨を貸出していた。
彼らはゴールド・スミスと呼ばれていた。
ゴールド・スミスは人々から金を預かり、そして金を貸し出していた。

ゴールド・スミスは人々から金を預かると金匠手形(きんしょうてがた)を発行した。
これは金を預かったという証明である。
つまりゴールド・スミスから見ると「支払い義務」、金匠手形を貰った人からすると「取り立てる権利」になる。
ゴールド・スミスは金匠手形を持っている人に金の支払い義務がある。

次第に人々は、重くてかさばる金よりも金匠手形を互いに交換するようになった。
そのためゴールド・スミスは金ではなく金匠手形を代わりに貸し出すようになった。

人々は金の代わりに金匠手形を借りて、借用証書をゴールド・スミスに差し出す。
この金匠手形が「銀行券」の始まりであると言われている。
ゴールド・スミスは後に「銀行」になった。

金匠手形は紙とペンがあれば発行できるため、「万年筆マネー」とも呼ばれる。
金匠手形(銀行券)は借り手の返済能力に応じて貸し手が発行できるため、借り手の返済能力が無限であれば発行できる量も実質無限になる。

これはつまり、銀行に借金をする人がいると、それだけで社会の貨幣の量が増えるということになる。
銀行に借金をする人が増えれば増えるほど社会全体の貨幣の量は増える。

MMTにおける貨幣の価値

MMTでは貨幣の価値は何によって保障されているのか?
銀行券は銀行が発行する紙切れである。
紙切れになぜ価値が生まれるのか?
昔は金による保証だったが、今ではその金より紙切れの方が多い。

これは「国家」が通貨(貨幣)を「租税の支払い手段」としているからである。
国民には納税義務があるが、これを解消するために貨幣が使われる。
そのため貨幣に価値が生まれる。

つまり通貨、貨幣の価値を保証しているのは徴税を行う「国家権力」ということになる。

まず国家があり、国家が国民に課税する。
それによって貨幣に価値が生まれているわけである。
ということはMMTでは国家無くして貨幣の価値は担保できないということになる。

国家の無いビットコイン

MMTでは貨幣の価値を保証しているのは国家だった。
現代の社会はこの貨幣論であるとされるのがMMTだ。

このMMTの論理が正しいとする。
するとビットコインはどうなるだろうか。

ビットコインは商品貨幣論という間違った貨幣論を前提としている。
そしてビットコインは国家に依存しない貨幣だ。

つまりMMTでは貨幣の価値は国家が保証しているのだが、ビットコインではそもそものその国家がないのだ。
ということはMMT流に言うとビットコインは「貨幣ではない」ということになる。

インフレとデフレ

経済活動では「インフレ」と「デフレ」がある。
インフレは貨幣の価値が下がり、物価が上がる。
デフレは貨幣の価値が上がり、物価が下がる。

1930年代にアメリカを皮切りに起こった「世界恐慌」はデフレによるものだった。
このとき、どうやってデフレを解消したか。

これは国家が貨幣供給量を増やし財政支出をしてインフレ率を上げたからである。
財政支出が増えれば物価が上がってインフレになる。

つまり国家にとって貨幣の量をコントロールできるのは経済政策にとって重要なことになる。

ビットコインとデフレ

ビットコインはデフレになった場合、これに対応できない。
なぜならビットコインには国家が無く、貨幣の供給量の上限が決まっているからだ。
つまりインフレ・デフレを調節する機構がない。

これは貨幣として致命的である。

Web3.0の世界

Web3.0は

  • MMTから見て前提が間違っている通貨を使っている
  • 自由主義社会である

という特徴を持っている。
このような世界がどうなるのか。

それはだれにも想像できないと思う。
壮大な社会実験であると言える。
もしMMTが正しいとするなら、仮想通貨は通貨ではない別の得体の知れないモノになる。

その得体の知れないモノから生まれた技術によって作り出される世界。
これはもうSFである。

現実は小説より奇なりとは言うがその通りだ。

Web3.0に触れてみた感想

ビットコインを使えばWeb3.0の世界に触れることができる。
私も使ってみた。

だが、関連技術は調べれば調べるほど個人主義の色が強い。
私もそれなりに色々な技術には触れているが、ここまで政治色が強い技術ははじめてである。

みなさんも触れてみて欲しい。
技術の根底に流れる思想を感じ取れると思う。

おわりに

今回はMMTとWeb3.0について考えてみた。
MMTもいち経済論理だし、Web3.0については技術自体は興味深いものがある。
だが政治と経済の目線で見たとき、Web3.0はなにか異質なものを感じる。

これをどうとらえるかは皆さんに判断してほしい。

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